『答え』よりも『問いの共有』が、組織と人を動かす

― 正しい説明をしているのに、なぜ現場は動かないのか ―

2026年02月03日

林田 康裕

組織を動かそうとするとき、多くのリーダーは「正しい答え」を示そうとします。何をすべきか、なぜそれが必要か、どう進めるべきか。論理も通っているし、方向性も間違っていない。それでも現場が思うように動かない。そんな経験をお持ちの方は少なくないでしょう。

正しい答えを伝えているのに、行動が変わらない理由

このとき、答えそのものが間違っているケースは、実はあまり多くありません。問題になりやすいのは、答えの前提となる「問い」が現場と共有されていないことです。人は答えに従って動くのではなく、自分なりに意味づけできたときに初めて動き出します。問いが自分のものになっていなければ、どれだけ正しい説明を受けても、行動は変わらないのです。

問いを持っているのは、いつも上司だけになっていないか

多くの組織では、「なぜそれをやるのか」「何を変えたいのか」といった問いを、上司や経営層だけが抱えています。一方、現場は「どう実行するか」という作業レベルの問いにとどまり、判断は上に委ねられ、責任も自分のものになりにくくなります。その結果、主体性は育たず、指示待ちの構造が固定化されていきます。問いが共有されていない組織では、行動は作業になり、思考が止まり、変化が起きにくくなるのです。

現場で見えた「問いが共有されていない組織」の姿

以前、ある企業で管理職向けの研修を行った際、「会社の方針は何度も説明しているのに、部下が主体的に動かない」という声を聞きました。詳しく話を伺うと、管理職の方々は施策や方向性を丁寧に説明していましたが、「なぜ今それに取り組むのか」「現場として何を変える必要があるのか」という問いは、上司側だけが持ったままでした。部下は言われたことを実行することに意識が向き、自分なりに考える入口を持てていなかったのです。

問いを共有するとは、答えを丸投げすることではない

ここで誤解されがちなのが、「問いを共有する」とは答えを出さないこと、あるいは現場に丸投げすることだという認識です。しかし実際は逆です。問いを共有するとは、考える土台を揃えることを意味します。何を大切にしているのか、どこに違和感を持っているのか、何を基準に判断しようとしているのか。こうした前提が共有されていれば、答えが一つでなくても、行動の方向性は自然と揃っていきます。

問いが共有されたとき、組織は静かに変わり始める

研修後、その企業では会議の進め方を少し変えました。結論や指示を先に伝えるのではなく、「今回、私たちは何を問いとして持つのか」を最初に共有するようにしたのです。すると、会議での発言が少しずつ変わり、判断のスピードが上がり、指示を待つ場面が減っていきました。劇的な変化ではありませんが、確実に「自分ごと」として考える姿勢が芽生えていきました。

答えを磨く前に、問いが共有されているかを見直す

組織や人を動かそうとするとき、私たちはつい答えを磨こうとします。しかし本当に必要なのは、どんな問いを共有できているかを見直すことかもしれません。問いが共有されれば、人は考え、意味づけし、行動を選び始めます。答えを与える前に、問いが共有されているか。その一点を見直すことが、組織が静かに、しかし確実に動き出す最初の一歩になるのです。

執筆者

林田康弘

林田 康裕

「主体性を伸ばす支援」を重視した伴走型コンサルタント

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