コラム
なぜKKDに頼ると失敗することがあるのか?正しい判断を下す力を身につける方法
2025年09月16日
平野茂実
KKDという言葉をご存知でしょうか。
最初のKは「経験」、次のKは「勘」、そしてDは「度胸」の頭文字の組み合わせです。仕事を進めるときに過去の経験や勘を根拠として判断し、十分検討せずに意思決定を行うことを指します。昭和の時代の工場や建築現場ではかなり幅を利かせていましたが、近年は安全や品質に関する規制が一層厳しくなり、すっかり見なくなりました。
今も生きている「KKD」
ところが、令和の今でもKKDが根強く残っている領域があります。それは「営業」です。営業部門にとって、売上数字は最も身近で、そして常に悩みの種でもあります。そのため営業の現場では「この地域なら月100件くらい訪問すれば大丈夫だ」といった経験則が今もよく語られているのです。
優れた営業成績を上げてきた管理職ほど「自分はこうして売ってきたのだから、部下にも同じようにやらせよう」と考えがちです。しかし、環境が変わって業績が低下し始めると、そうした属人的な判断は機能しなくなり、失敗を繰り返すようになります。最後は「根性が足りない!」と怒り、業績はどんどん落ち込んでいきます。
統計学が営業部を救う
こうした負の循環を断ち切る有効な手段があります。それは統計学を使うことです。基本的な「統計の手法」を取り入れるだけで、客観的で正しい判断を行うことができるようになります。
一例として、営業に役立つ「相関分析」という統計学の手法を紹介します。
営業の仕事は売上を獲得することです。言うまでもなく、売上は複数の要因(訪問件数、提案件数、成約率など)から影響を受けています。売上と要因の「関係」を調べるのが相関分析です。たとえば「訪問件数が増えれば売上も増える」という分析結果は「2つのデータには正の相関関係がある」と表現されます。
意外な分析結果から分かったこと
以前、ある食品卸会社で営業部員の訪問件数と売上について相関分析を実施したことがあります。結果は「正の相関」つまり訪問件数が多いほど売上が上がっているということでした。しかし、問題は訪問件数が増えるほどに売上の伸びは鈍くなり、ときにはマイナスになってしまうことでした。
そこで、営業部を構成する営業1課と営業2課を個別に分析してみたところ「大きな違い」が見つかったのです。営業1課の訪問件数と売上にははっきりとした「正の相関」があったのですが、営業2課は「ほとんど相関がない」つまり訪問件数と売上には、はっきりとした関係がないということです。
営業2課の商談では天候や気温、曜日などのデータも活用して、「週末は猛暑日になる予報ですから〇〇を多めに納品しましょうか?」といった「刺さる提案」をしていました。訪問件数こそ多くはありませんでしたが、営業1課に引けを取らない成績を上げていました。
営業部長はこの違いを見つけるとすぐに、営業部全体でどのような提案がお客様に採用されてきたのか、その提案の根拠にはどのようなデータがあったのかを調べました。そして営業部内にデータ分析チームを作り、訪問件数を重視する方針をやめました。その成果はすぐに現れ、業績は回復していきました。
もしも営業部長が「いつまでも机に向かってないでもっと訪問件数を増やせ!」と命じていたら提案のための準備がおろそかになり、売上は低迷していたことでしょう。
統計学は仕事の道具
営業に限らず、統計データを読みこなす力があれば、誤った判断を避けることができます。統計学というと難しい数式を思い出すかもしれませんが、面倒な計算自体はパソコンがやってくれます。
一度「ビジネスで使える統計学」を学んでみてはいかがでしょうか。
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